ハァ・・・・・・・
越前への気持ちを抑えるために彼女を作ろうと実行したものの・・・
ふられ続けて今日で4人目・・ホント・・やってられね〜ねぁ・・・やってられねぇ〜よ。
俺ってもてねーのかな?
告白をした彼女が去った後、俺は一人空を見上げた。
まぁでもよ・・・実はふられてホッとしてんだよな・・・
もしこれで上手くいってしまったら・・付き合うなんて事になったら・・・
俺の本当の気持ちは彼女にないのに・・・・って・・・・
あ゛〜〜〜〜〜!!!俺は何をやってんだ!!!
こんな中途半端な俺なんて・・・やっぱ俺じゃねぇよ!!!
もう止めだ!!
こんな事で周り巻き込んで、越前への気持ち誤魔化すなんて・・・
そうだ!あれだ!テニスだ!俺にはテニスしかねぇ!
英二先輩の時だって、そうだったじゃねぇか・・・バンバン練習して余計な事は考えねぇ!
これしかねぇよ!
っていうか・・・最初からそうしときゃ良かったんだよ!
俺は気持ちを切り替えて、両手で髪をかき上げた。
「よし!行くか!」
校舎裏を出た俺は、渡り廊下へと来た道を戻って行く。
さっきの彼女はもういないみたいだな・・・
一応廊下まで着くと、俺は辺りを見回した。
ふった相手の顔なんて、そうそう見たくないもんな。
当たり前か・・・
まぁそういう俺だって動機は不純だが・・・
ふられた身としてはそう何度も顔を合わすのは気まずい。
いなくて良かった。
ホッとしながら、教室へと足を向けた俺は階段下まで来てハタと気付いて足を止めた。
だが・・・このまま戻ると会う確立・・・って乾先輩じゃないから何%かわからねぇが・・
かなり高いよな。
クラスは違うが、教室は同じ階だ。
もう少し時間を潰して行くか・・・
俺は体を反転させて、購買へと歩き始めた。
ジュースでも買うかな・・・
フンフンフン〜〜〜
ふられた直後に鼻歌なんてどうかしている、と思いながら何処か吹っ切れた俺は足取りも軽くまた渡り廊下を歩いていた。
自販機でジュースを買って・・・あとパンも買うか・・・焼きそばパン残ってるかな?
まぁ・・・この時間じゃあ残ってねぇよな・・・・
んっ?
自販機が見えてくると、先約がいるのが見えた。
しかも何やら自販機の前で話し込んでいる。
チェッ誰だよ。話すなら何処か別の場所で話せよな・・・邪魔なんだよ!
ったく・・・これじゃあ声かけてどいてもらうしかねぇじゃねぇか・・・めんどくせぇな・・
んっ・・・・・・・・えっ?
あっ・・・・あれは越前じゃねぇかっ!?
俺は反射的に柱の陰に隠れた。
ばっ・・・・隠れる必要なんてねぇのに・・・何やってんだ俺は・・・・
そう思いながら額を手で叩く。
だがホントは・・・・今は何処か後ろめたい。
会えた嬉しさより、会わす顔がない・・・って思いの方が強かった。
体は正直って事か・・・・チッ・・・
んで・・・アイツは誰と話てんだ?
一人じゃない事は遠目で気付いた。
それに今は顔の表情がわかるぐらい近くにいる。
声は聞こえないが、話し込んでいる事はわかった。
咄嗟に隠れたから、相手が誰だかはわかんなかったけどよ・・・
背の高さからして同じ一年では・・・ないよな。
俺はそっと柱の影から覗き込んだ。
ありゃ・・・大石副部長じゃねぇか・・・何で二人が?
珍しい組み合わせ・・・でもないか?
俺は大石先輩と話す越前を見た。
部活中はよく見かける光景だ。
主に大石先輩が一年でレギュラーの越前を気遣って何かと話しかけている感じなんだが・・・
そういえばアイツ・・・妙に大石先輩には素直なんだよな。
普段の越前は決して愛想のいい方ではない。
それに人の言う事も素直に聞くような奴じゃない。
だが何故か大石先輩に言われると、『ういっス』と1つ返事でやりやがるんだよな。
俺や他の先輩だと『なんで俺がやらなくちゃなんないっスか・・』って反論するくせによ。
思い出すとちょっと落ち込みそうになる差だ。
ったく・・・越前の奴・・・
俺はもう一度柱の影から覗き込んだ。
越前が大石先輩に詰め寄っている。
アイツ・・・何詰め寄ってんだ?
部活の話・・・・?
にしては、越前の詰め寄り方はおかしいよな・・・
一体どんな話からあぁなったのか・・・
越前は真面目な顔して至近距離で大石先輩を見上げている。
大石先輩はそんな越前に苦笑したあと、照れながら何かを話し始めた。
クソッ!歯痒いぜ!
表情はわかるのに声が聞こえない。
まさか越前の奴・・・大石先輩に気がある訳じゃないよな・・・?
いや・・・そんな訳無いか・・・大石先輩には英二先輩がいる。
みんな知ってる事だし、越前だってそこんとこはわかってる筈だ。
だからそんな事、ありぇねぇなぁ・・・ありえねぇよ・・・・・・・・いや・・・・
でも・・・それでも好きになってしまう事だってある・・・か・・・
実際俺も・・・
変な妄想だけが広がる。
ダァーーーーーーー!!!!
もうこんな所にいても埒があかねぇ・・・いっそ偶然を装って出て行くか・・・
そうだ・・・それしかねぇ・・・よっしゃ!!!
声が聞こえないジレンマから、俺は柱の影から出る事を決意した。
が・・・出ようとした時に目に入ったのは、大石先輩に頭を撫ぜられて笑顔を見せる越前だった。
!!!!!!
なっ・・・!?何だよ!何て顔してんだよアイツ!!
出かけた体をまた柱の影に隠して、俺は胸の辺りのシャツを掴んだ。
あの険の取れた穏やかな眼差し・・・
満面の笑顔で大石先輩に笑いかける越前は俺がずっと見たいと思っていた目をしていた。
大石先輩をあんな目で見るなんて・・・・
俺以外の奴にあんな目を向けるなんて・・・
胸の奥からどす黒いものが溢れ出す。
許せねぇなぁ〜許せね〜よ!
何で他の奴に見せんだよ!
俺だけに向けろよ!
越前・・・
床を睨みつけて、ワナワナと打ち震えて止まらない手を柱へ打ち付けた。
馬鹿ヤロウ!!!
「何やってんの?」
「・・・えっ?」
聞き慣れた声にゆっくり振り向くと、そこには英二先輩が立っていた。
「わっ!手痛そ〜〜〜馬鹿力で柱なんて叩くから、赤くなってんじゃん!」
英二先輩は会うなり俺の手を取って見ている。
「あっ・・・あの・・・・?」
そんな英二先輩に戸惑った眼差しを向けると、英二先輩はイタズラっぽい目を俺に向けた。
「で?桃ちんはどうしちゃったのかな?」
「えっ?」
「だからーー。柱をゴーンって殴るような事があったんだろ?」
「いや・・・あの・・・その・・・・」
「何何?先輩に言えない様な事なのかな?」
ニシシと笑う英二先輩。
あぁ・・・めちゃくちゃ興味津々じゃねぇか・・・・
不味いとこ見られたなぁ・・・・
「別にたいした事じゃないんっスよ!ちょっとこうむしゃくしゃするなーなんて・・・」
「むしゃくしゃねぇ・・・フムフム。んじゃ質問変更!何にそんなむしゃくしゃしてんの?」
・・・はっ?それじゃあ一緒じゃねぇか・・・
って・・・どうすんだ?
まさか越前と大石先輩を見てムカついてた・・・なんて言えねぇし・・・
それに大石先輩の事となると・・・この人にも関係してくるしな・・・参ったな・・・
取り敢えず誤魔化せるだけ誤魔化すか・・・・
「そっ・・・そんな英二先輩に話しする程の事じゃないっスよ」
「何だよ。話しする程の事かどうかは俺が決める事だろ?何?そんなに言い難い事な訳?」
「えっ?いや・・・・」
ハァ・・・この人こういう事にはホント鋭いというか・・・マジ不味ったな・・・
頭をかきながら英二先輩を見る。
「わかった!テストで赤点取ったとか!」
「はっ?」
それだったらこんなにむしゃくしゃしねーよ。
赤点はいつもの事だからな・・・
『違うっスよ』って答えようとして、先輩を見ると先輩がニヤッと笑った。
「なんちゃって!恋の悩みだろ」
「えっ!?」
やられた・・・不意打ちのように確信をつかれて顔に出てしまった。
「なるほど・・・図星か」
「いや・・・それは・・・」
「まぁまぁ。隠すなよ。俺と桃の仲じゃん!悩んでるなら力になるよ」
「だから英二先輩・・」
否定をしようとしたが、今更遅い・・・英二先輩は何故か嬉しそうにどんどん話を進める。
「あっ!そうだ。最近やたら色んな子に告ってるらしいじゃん。
それと関係があるんじゃないの?」
「えっ?知って・・・たんスか?」
そんなプライベートな事・・・どうして知ってんだ?
「知ってって・・・当たり前だろ?噂になってんじゃん」
「マジっスか?」
「何?桃・・知らなかったの?」
「ハァ・・・まぁ・・・・」
洒落にならねー・・・・
俺はガクッと肩の力を落とした。
英二先輩が知ってるって事は・・・まさか越前の耳にも入ってる・・なんて事・・・
いやでもアイツはこの手の噂話には疎いし、英二先輩は逆に敏感というか・・・
そうだ英二先輩が特別なんだ。
うん。そうに違いない・・・
「堀尾がみんなに触れ回ってるし」
「はっ?・・・堀尾・・・?」
「そう。堀尾」
終わった・・・堀尾が知ってるって事は・・・完全に越前の耳にも入ってるよな・・・
俺はなんて事を・・・・アイツへの気持ちを誤魔化す為にやった事とはいえ・・・
これじゃあ空回りもいいとこじゃねぇか・・・・
越前の奴・・・俺が女子に告った話し聞いてどう思ったかな・・・・
アイツには海堂との事も知られてるっていうのによ・・・
これで俺を軽蔑するような事になれば・・・
「桃?大丈夫?」
「全然大丈夫じゃないっス・・・」
俺は頭を抱えた。
アイツと一緒にいたいが為の行動が、アイツを遠ざける様な事になれば・・・
死んでも死にきれねぇ・・・
ここはやっぱ英二先輩に相談すっかな・・・・
「英二先輩っ!」
俺は英二先輩の両肩をガシッと掴んだ。
「わっ何?・・・急に大きな声でどうしたの桃?」
「俺・・・」
相談が・・・と言おうとして、別の声に俺の声はかき消された。
「英二!」
えっ?英二?ってこの声・・・
「あっ!大石っ!」
英二先輩はその声を聞いた途端に、体を反転させて声の主へと駆け寄った。
「どうしたのこんなとこで・・・あっ!おチビも一緒じゃん」
「ういっス・・・」
越前は大石先輩の横でちょこっと頭を下げて挨拶している。
「英二こそ桃と一緒に何してたんだ?」
「えっ俺?あぁ・・今、桃と偶然会ってさ・・・なっ!」
英二先輩が俺をチラッと見る。
どうやら気遣って誤魔化してくれてるようだ。
「あっどうも・・・・」
俺は片手で頭を押さえながら大石先輩に頭を下げると、俺の顔を見た途端ずっと俺を睨むように見る越前の前へと歩み寄った。
「よっよお・・・」
「・・・・ういっス・・・」
それなのに目の前に行くと、目線を外された。
チェッ・・・何だよ・・・俺だけそんな態度かよ・・・
俺達の間に重い空気が流れる。
それに気付いた英二先輩が大石先輩に話をふった。
「大石はおチビと何してたの?休み時間に一緒なんて珍しいじゃん」
「えっ?あぁ・・俺達も・・・偶然会ってな・・・」
大石先輩が越前を見下ろした。
「ナンパされたんスよ・・副部長に」
「「ナンパぁ〜〜!!!」」
思わず英二先輩と声が揃った。
「こら越前。誤解を招くような言い方は不味いだろ?」
「だって副部長が俺を誘ったんじゃないっスか。それでイチゴミルク奢ってくれたんっスよね」
「あぁ・・・まぁそうだけど・・・」
「大石〜おチビナンパするなら俺を誘えよ!俺はてっきり昼休みも色々委員会の事で忙しくしてるだろうなぁ〜って遠慮してたのにさ・・・ズルイよ・・」
「えっ英二・・・だからさ誤解っていうか・・・委員会の仕事はしてたんだけど・・・」
英二先輩が越前のナンパ発言で拗ねだして、大石先輩に絡みだした。
大石先輩は大慌てで言い訳をしている。
俺はそれを横目に見て、越前に話しかけた。
「お前さぁ。わざとだろ?あんまり英二先輩からかうなよ。副部長も困ってるじゃねぇか」
「あんたには関係ないじゃん」
「そりゃあ俺には関係ないかもしれねぇが、少なくとも副部長には奢ってもらったんだろ?恩を仇で返すような事はするなよ」
「だから・・あんたに関係ないじゃん」
越前は全く俺の顔を見ようとせずに無愛想に答えて、横で言い合う英二先輩と副部長を見ていた。
俺はその姿にムカついて、越前の腕を掴むと自分の方へ引き寄せた。
「おい!いい加減にしろよ」
「あんたこそ・・・・」
越前は勢い余って俺にぶつかると、腕が痛いのか苦痛な表情を浮かべている。
「俺が何だよ?」
腕が痛いくせに生意気な態度は変えない越前が、搾り出すような小さな声で何かを言おうとしたから、俺は腕を掴んだまま顔を近づけた。
「英二先輩とここで何してたんスか?もしかして海堂先輩が駄目で女子も駄目で英二先輩なんて考えてるんじゃないっスよね?」
越前の大きな目が俺を射るように睨む。
「お前・・・」
俺は言葉に詰まった。
どういう意味だよ・・・
海堂が駄目で女子も駄目で英二先輩って・・・
ハッ・・・・まさかそういう事か・・・
お前・・やっぱ女子に告った話知ってんだな・・・
だけど・・・だからってそんな言い方・・・
それにあの人は関係ねぇ・・・あの人は・・・
「英二先輩は関係ねぇーよ」
「さぁどうだか・・・」
睨み返す様に答えると、越前は不敵な笑みを浮かべた。
何だよ。何でそんなに絡むんだよ。
何でそんな目で俺を見るんだよ。
俺の事・・・見境の無い馬鹿だって・・・見下してるのか?
それとも・・・・・・
・・・・チッ・・・やってられねぇ〜ね。やってられねぇ〜よ。
俺は越前の目が耐えられなくなって突き放すように睨み付けた。
「だいたい・・・それこそお前に関係ねぇだろ」
最後まで読んで下さってありがとうございます。
何だかんだで、どんどん長くなっているような気がしますが・・・ついて来て下さると嬉しいです。
そして桃・・・どんどん気持ちが空回りしていますが・・・しかも中途半端で終わったような感じも・・・
ですが・・・リョーマはそんな桃をどう思うのか・・・
次はそんな感じだと思います。気長に待ってて下さい。
2008.10.18